強面お巡りさんはギャルを愛しすぎている
私の声に反応したお巡りさんは、ヒュッと長い足で後ろ回し蹴りをした。男の横っ面に革靴の踵がヒットすると勢いよく地面へと倒れこんだ。もう一人の男が倒れた男を抱えながら、車へと逃げて行った。
「大丈夫か」
「大丈夫かって……なんで捕まえないのぉー!?」
走り去った車を指差しながら責め立てると、お巡りさんは着ていたトレンチコートの襟を直しいつもの仏頂面で答えた。
「今日は非番だ」
「休みだからって捕まえないなんて職務怠慢! アタシは今拉致されそうだったんだからッ! 現行犯でしょ! 市民を守るのがお巡りさんの仕事でしょ!」
「男二人捕まえても出入口や車にはまだ仲間がいるようだったから、俺一人じゃ取り逃がしてしまう。応援を呼ぶにも携帯を忘れた」
「だからって……はぁー、もういい」
男を捕まえる云々は別にどうでもよくなった。それよりも休みだというのにこんな時間に渋谷をうろついてたことが気になった。大人だからうろついていても変ではないが、渋谷の夜を私服で歩いてるなんて……もしかしてデートとか?
顔から足先までじろりと眺めた。お巡りさんは白のスタンドカラーシャツに黒のスラックス、グレーのトレンチコートを羽織っていた。靴も綺麗に磨かれたダークブラウンの革靴。
(わりとスタイルもいいのね)
いつも警察官の制服だったので、私服はなんだか新鮮だ。ファッションセンスも悪くない。やっぱりデートだろうか。彼女の見立てとか。
お巡りさんは地面に落ちていたビニール袋を拾った。袋には玉ねぎ、にんじん、じゃがいもなどが見えた。
「買い物帰りだったの……?」
「あぁ、そうだ。それよりもうこんな時間だから早く帰りなさ――」
お巡りさんが私のキーホルダーがたくさん付いて重くなっているスクールバッグを拾い上げ差し出した瞬間、大雨が降り始めた。大粒の雨滴は渋谷の汚れたアスファルトをあっという間に黒く濡らしていく。
「ぎゃー凄い雨ッ!」
「とりあえず走れ」
「は?! ちょっと」
お巡りさんは着ていたトレンチコートを私の頭から被せ手を引いた。
私は引かれるまま、お巡りさんの背を見ながら走らされた。アスファルトの水溜まりを避けきれず踏み、雨水が跳ね上がるとルーズソックスが重くなっていった。