これを愛というなら~SS集~
「あっ……!悪いっ……!」


先に声を発したのはチーフで、バスタオルを取ってもう一度、中へ入って直ぐに下半身にタオルを巻いてチーフが出て来たんだけど……

その上半身に釘付けで目が離せなかった。

だって……だって……

均等に割れた腹筋が目の前にあるんだよ。

綺麗な男らしい身体に目を奪われないなんて……有り得ないでしょ?


服、着てくださいって本当なら言うんだろうけど……

この時の私は何を思ったか、チーフの上半身が裸の身体に抱き付いていた。

たぶん、無性に触れたくなったんだと思う。

理想の体つき過ぎて。


「……南……どうした……?」


困惑した声音のチーフの腰に腕を回したまま見上げて、利香です、と。

利香って呼んでください。

今、この状況で……少し高めな清潔感ある声で呼ばれたかった。

心臓が飛び出るくらい高鳴って、静かな空間に、チーフにも聴こえてるんじゃないかってくらい響いていたの。



「……利香……入社してきた時から思ってた……可愛い名前だって」


この清潔感ある声が甘さを含んだ声で応えてくれたら、こうも強くチーフの全てが欲しいって欲を掻き立てて……どう伝えらいい……

それなのに……俺の名前知ってるか?と訊ねてくれるんだから……


「……陽介さん……」


自然と、自分でも驚くくらいの甘い声音で呼んでいた。

よく出来ました、と頭を撫でながら……キスをしてもいい?

頭を撫でてくれている反対の手の親指で、唇をなぞられる。

何なのよ!

この更に甘さを含んだ声で、艶やか瞳で見つめながら言われたら……大きくその瞳を見つめたまま頷いちゃったじゃない。

唇をなぞった指先が顎に触れて、少しだけ持ち上げられたかと思うと、顔が真っ赤、と。

可愛いな、と呟いた唇が……私の唇に重なった。

バスルームからの湯気に、次第に深くなるキスにもクラクラする。

熱いのに、優しいキス。

このキスが好き!

もっとって求めるように、陽介さんの舌を追い掛けている自分に躊躇っていると、離された唇が名残惜しくて見つめていた。


「いいのか?このまま……利香の全てを奪っても」


見つめていた唇が、そう動いて我に返ると同時に……頷いていた。

陽介さんになら奪われたいです、と。


私も奪いたいかったの。

陽介さんの全てを。

恋愛経験は少ない、と言っていた陽介さんのこれからのはじめても、私が奪いたい。


だから……全てをあげますって。

奪ってくださいって。

自ら、背伸びをして唇を寄せていた。
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