占いお宿II 新たな契りを結ぶ時
父とヴィンセントが横並びに座ると、私の横に、なぜかルーカスが座った。アルフレッドは、お誕生日席に陣取る。ドリーやミランダは、カウンターから遠巻きに見ているし、ジャレットも離れて控えている。

「へえ。獣人の知り合いもできたんだね」

「はい、お父様。こちら……」

「お父上!!」

「ちょっ、ちょっと、ルーカス!?」

出しゃばってくるルーカスを制する私を、父は楽しそうに見ている。

「俺……いや、私は、隣国サンミリガン王国の第一王子、ルーカス・サンミリガンと申します」

気持ち悪っ。違和感しかない丁寧な言葉遣い。ルーカスが礼儀正しいなんて、この晴天も、この後には土砂降りになるんじゃないかしら?

「ほおう。お隣の。これは失礼。名乗りもせず、申し訳ございません。私はセシリアの父、ブランドン・ローズベリーと申します。娘は……迷惑をおかけしてませんか?」

逆よ、逆。逆だから!!

「とんでもない。ライ、セシリアは、いつも私の支えとなってくれてます」

「そうですか。ところでセシリア、ここではライラと名乗ってきたのだな?」

「はい。お父様、ごめんなさい。せっかくお父様が付けてくださった名だというのに……」

「いや。必要なことだったのだろ?」

「ええ」

婚約破棄されたあの状況で、本名を名乗ることは不可能だった。私は、国中から支持される王太子を裏切ったとされていたのだから。

「それに関しては、全て私のせいです。伯爵もセシリアも、本当に申し訳なかった」

「アルフレッド……」

「殿下。もう謝罪は十分に受け取りましたよ。それより、ライラと呼べばいいのかな?」

「え?そ、そうね。ここではもう、占い師のライラで通ってるの。でも、お父様といる時の私は、娘のセシリアだわ」

「そうか。それより……」

ルーカスとアルフレッドに、ちらりと視線を向けた父。

「殿下や、そちらの王子に対する態度は……」

「かまいません」
「むしろ親しみが増す」

アルフレッドとルーカスがすかさず答えると、父は苦笑いし、ヴィンセントは微妙な顔をした。


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