十六夜月と美しい青色
 「ところで、昨日の帰りに、従業員の通用口の外で待ってた凌駕に声を掛けられたの。何もされなかったけど、妊娠させた元カノと何かあったの?何か言いたそうだったし、弁護士に依頼していたことは話しが(まと)まったのかしら」

 その時の、凌駕の思い詰めたような表情が気になっていた。()りを戻したいだけなら、もっと強引な行動に出ることもできたはず。一瞬、抱きしめられたとき突然だったけれどとても優しかったとことが、妙に気になって仕方なかった。

 「そんなことが…、危害を加えられる事はなかったんだな?」
 
 「ええ。そんな雰囲気でもなかったし…」

 何故、直ぐに連絡してこなかったんだと、柊吾がもっと怒るかと思っていたのに、以外にも神妙な顔をして考え込んで言った。

 「康子さん、いま社長って居ますよね?」

 離れたところで仕事をしている康子さんに、社長のスケジュールを確認すると手元を片付けて席を立った。

 「はい。今日は午前中は外出も来客も予定にないですよ」

 「ありがとう。結花、ちょっとついて来い」

 結花は慌てて、いつもとは違った様子の柊吾の後を追って行った。

 足早に階下に降りると、奥の応接へ迷わず向かった。後ろを、小走りに結花が追いかけた。

 柊吾が少し乱暴に、ノックもそこそこにドアを開けてそこに居た父に声をかけると、結花も座るように促された。
 
 「親父、ちょっといいか?」

 勢いよくソファに柊吾が座ると、書類に目を通していた父親が眉間にしわを寄せて柊吾を見た。

 「どうした、騒々しい」

 普段、静かな結花までも柊吾と一緒に慌ててやって来たことに驚いて、手元の書類をテーブルに置くと、老眼鏡を外して二人の顔を交互に見た。

 
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