ずっと好きだった。
 

「――予定と違って一泊しなくてすんだのは助かったが、遅くなりすぎたな」

「それでも明日朝ゆっくり眠れるほうがいいですから。それよりもわざわざ送ってくださらなくても大丈夫ですよ、課長」

「いや、こんな遅い時間に一人では帰せないだろう? タクシーが捕まればよかったんだが、駅が一緒でよかったよ。気付かず一人で歩いて帰すところだった」

「課長は心配性ですね」


 笑って答えながらも、こうして優しくされるのは嬉しい。
 新入社員の頃、彼のことを忠告してくれた主任は今はもう課長になっている。

 それで彼はようやく主任になれて……って、同期なのに一歩先を進んでいる課長のことが彼は嫌いみたい。

 だから今回の出張もいい顔をしていなかったな。
 こうして送ってくれているって知ったら怒りそうだけど、一泊しなかったことは喜んでくれそう。
 住んでいるマンションの前で課長にお礼を言って、部屋へと帰る。

 帰ったらまず彼に連絡して、それからお風呂を溜めてゆっくり浸かろう。
 それと課長に何かお礼がしたいから、何がいいか考えよう。

 でも彼に連絡するのはちょっと面倒くさいな。
 きっと疲れてるから……だよね。

 そんなことを考えながら部屋に入ると、電気が点いていることで彼が来ているんだとわかった。
 ひょっとして私がいなくて寂しいからとか?

 なんてこと、あるわけないか。
 何か忘れ物でもあった?
 それとも今月も金欠で、買い置きの冷凍食品でも食べに来たとか?

 彼に期待していない自分がおかしくて、笑いを堪えて部屋に入った。
 だけどまさか、こんな最悪なことまでは想像できなかったよ。
 
 彼が私のベッドで他の女といることろを目にするなんて。
 本当に私は馬鹿だ。

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