ずっと好きだった。

「課長、お支払いします」

「水一本くらいいいよ。それより、その荷物貸して」

「はい?」

「今日は俺ん家に泊まれよ。すぐそこだから」

「いえ、そんな――」

「家に帰りたくない何かがあったんだろ? 荷物持ったまま……部屋から出てきてしまうようなことが。そんな部下を放っておけるはずがないだろ。ちょうど一泊の準備はしているんだから、気にするな。俺はソファででも寝るから」

「ダメです! 課長に甘えるわけにはいきません!」

「甘えろよ、馬鹿。ほんと、君は馬鹿だよな」

「それはわかってますけど、でもそんな言い方……」

「だから、あの男はやめておけって忠告しただろ?」


 ああ、全部見透かされているんだ。
 本当に課長の言う通り、私は馬鹿だよね。


「……それでは、お言葉に甘えさせていただきます」

「おう、そうしろ」

「それでも、ソファには私が寝ます」

「……そこは要相談だな」


 ここで折れないところが課長だなと思う。
 普段は優しいけれど、厳しく叱られるときもあって、それでもあとでちゃんとフォローもしてくれる。
 後輩たちも憧れている子が多くて――。


「課長! やっぱりダメです! 彼女さんに悪いですから!」

「それは誰の彼女だ? 俺は今は残念ながらフリーだよ」

「あ、そうなんですね……」


 納得の言葉を口にしながらも疑ってしまうのは仕方ないよね。
 だって、後輩たちが噂しているのを最近聞いたばかりだもん。

 課長に告白した子が振られた理由が「結婚を考えている彼女がいるから」だって。
 でもどうでもいい。
 課長が彼女とケンカしようと、私には関係ない。

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