ずっと好きだった。
「――ここだったんですね、課長のお家」
「俺の絶対譲れない条件が駅近だからな」
「ここって分譲だと思ってました」
「分譲だよ。俺は今、ローン地獄真っ只中だ」
そう言って課長は笑うけど、分譲マンションを買うなんて、やっぱり結婚を考えてるからじゃない。
きっと彼女は課長がこんなに気安く女性をマンションに泊めるなんて知らないんだ。
私だったら、理由はどうあれあまりいい気はしないし、せめて一言ほしいもん。
まあ、一言どころか勝手に私の部屋のベッドで浮気されてたんだけど。
「もし彼女が――将来の彼女がこのマンションは嫌だって言ったらどうするんですか?」
「その時は売るよ。ここの立地なら価値も大して下がらないし、賃貸に住んでるようなもんだろ」
「……なるほど」
今度は本当に納得。
私ではこの物件はローンさえ組めないだろうけど、そういう考え方もあるんだ。
まあ、私ならここで十分どころか満足しちゃうけどな。
私が奮発して借りたマンションは徒歩20分でちょっと遠いけど、ここの駅は会社まで一本だし、駅周辺も開発が進んでてすごく便利だから。
羨ましいな、彼女。――って、ダメダメ。
いくら部下が困っていたとはいえ、こんなに気安く部屋に泊めるような人なんだから。……気安く泊まる私もどうかと思うけど。
「って、最上階ですか!?」
「一番上は暑くなるって思ってたんだけどさ、屋上が緑地になってて、散歩もできるようになってるんだよ。バーベキューもできるらしいけど、夜の10時以降は立入禁止だからそれほど騒音も気にならないだろ? 自家発電機もあるらしくて、非常時にエレベーターや水が止まることもないらしい。それが購入の決め手になったんだ」
「そ、そうなんですね……」
もう凄すぎてよくわからない。
エレベーターだってカードをかざしてから動き始めるし、お部屋はまさかの指紋認証とか。
ここ、本当にいくらするんだろう。
駅前の広告をちらりと見て「すごい高いな」と思っただけで、興味を持っていなかったから。