ずっと好きだった。
「はい、どうぞ」
「……お邪魔します」
「荷物は適当にその辺置いて、部屋はあるんだけど家具がないからさ。客用寝室でもちゃんと用意しとけばよかったよ」
「いえいえ、そんな……本当に家具がないですね」
マンションとは思えない広い玄関を抜けてリビングに入って出た感想。
広いリビングには二人用のソファと小さなテーブル、テレビだけ。
「バスルームとトイレは廊下の左側だけど、キッチンからも行けるから。とりあえず風呂いってこいよ。あ、湯は貯めたほうがいいか?」
「いえ、シャワーだけで」
「だよな。タオルはちゃんと洗ってるのが棚にあるから、適当に使って洗濯機の中突っ込んどいて。俺、その間に飯食ってるよ」
「……お言葉に甘えてお先に失礼します」
キッチンから通り抜けられるとは聞いたけれど、一度廊下に出て当たりをつけて扉を開けた。
バスルームはリビングと違って生活感があってほっとする。
通りすがりにさり気なく見たキッチンも道具が揃っていて、自炊しているんだなってわかった。
彼はいっさいお料理をしなくて、手作りのご飯が食べたくなったら私のところに来ていたんだよね。
そんな彼をいつまでも甘やかしていた私もどうかしていたよ。ホント大馬鹿。
課長がここに住んでどれくらいになるのかわからないけれど、バスルームも清潔感があって片づけられていることに驚く。
忙しくて毎日私より遅く帰っているよね?
彼の部屋は私がたまに掃除に行って、女を連れ込んだ形跡を発見してはケンカになっていたっけ。
だからいつの間にか彼の部屋には行かなくなって、ただ来てくれるのを待つようになって。
そういえば、ここには女性のものが何もないな。
住んであまり経っていないのかも。
このマンション自体一年ほど前にできたものだし、彼女もあまり来たことないのかも。
だからというわけではないけれど、できるだけ自分の形跡を残さないようにちょっと掃除をして出る。