恋人ごっこ幸福論
「じゃ、俺はこっちだから」
「はい。試合頑張ってください。私…先輩なら大丈夫って信じてます」
「ん、」
体育館の方へ歩いて行って、入り口前でもう一度しっかり思いを伝える。
短く頷くだけの彼に軽く頭を下げて、そろそろ英美里ちゃんたちの所へ戻ろうと背を向けた。
「神山」
そのとき、後ろから呼び止められる。
「今日試合終わったら待っててほしいんだけど」
真っ直ぐ、冗談ぽい様子もなく告げられたその言葉につい目を瞬かせる。橘先輩から、そんなこと言われるなんて。
「分かりました」
「うん、入り口前の時計の下で待ってて」
それだけ告げると、中に消えていく彼を見つめる。
頑張って、先輩。
これからの試合で貴方が悔いなくバスケが出来ますように。
待っててほしいって言われた理由も気になったけれど、それよりも今はただその気持ちだけでいっぱいだった。