恋人ごっこ幸福論
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「試合、負けちゃったね」
「ま、うちの高校なんて勉強ばっか力入れてるから運動部大したことないしそんなもんよ」
紗英ちゃんのつぶやきに、英美里ちゃんがからりと笑う。
午後からの試合は、結局のところ初戦敗退という形で終わってしまった。
「それに勝ち負けよりひぃちゃんがちゃんと橘先輩の試合してるところ観れたことが大事でしょ。私ら別にバスケなんか興味もないし」
「そうだね、あたしもルール細かく知らないからよく分かんなかったし別にいい気がしてきたわ」
「2人共あっさりしてるね…」
まあ、いつもこんな感じだけどね。
体育館を出て最初に来た広場へと戻ってくると、待ち合わせの時計の場所を確認する。
「英美里ちゃん、紗英ちゃん。私橘先輩と待ち合わせしてるから先帰ってもらっていい?」
「あら、一緒に帰るの?」
「待ってて…って言われただけだから分かんないけど」
一緒に帰ってもいいのかな、あわよくばと思っていたけれど実現できるイメージが湧かなくて曖昧に返事する。
「彼氏なら普通そうでしょ!」
「…なんていうか、相変わらず恋人同士とは思えない関係だね」
うう、おっしゃる通りですけども。惚れさせようとしてる最中なんだもん、しょうがないじゃない。
「ま、とにかく意地でも一緒に帰ったらいいのよ!じゃあまた月曜ね」
「進展期待してるよ」
「特に何もないよ~…またね!ありがとう」
先に帰る2人を見送って、時計の下で1人行き交う人々の群れをぼんやりと眺めながら、彼を待つ。
結果としては良くなかったのかもしれないけど、私にはあのコートの中で1番彼がかっこよかった。贔屓目があるのは勿論自覚している、だけど。
あの人の努力の背景と不器用さ、そして誰かのためを思って懸命に闘っていることを知っていたらどうしてもそう思ってしまうものだ。