恋人ごっこ幸福論
「…待たせたな」
「!橘先輩、お疲れさまでした」
ぼんやりと眺めていた群れから、はっきりと大好きな彼の姿が目に入って傍に駆け寄る。
「知ってると思うけど、駄目だった」
目の前に来るとすぐぽつりとそれだけ呟く。表情からは、今どんな気持ちかは読み取れない。なんて言うのが正解なのか。
「…でも、悔いはないんでしょう?」
「うん、お蔭様で」
迷いつつも私の思う答えを返すと、少し口角が上がった。さっきとそんなに表情は変わっていないように見えるのに、なんだか晴れやかな、すっきりとしたように見える。
「活躍してましたもんね」
「まだまだだけど」
人の群れに沿って歩きながら、短い会話をする。良かった、もう大丈夫そうで。些細な時間に幸せを噛み締めながら、ふとそう思った。
「あのさ、昼飯なんだけど」
「お昼ご飯がどうかしました?」
「…本当に申し訳なかった。俺の勝手な事情でせっかく作ってくれたのに、食べなくて」
「ああ、全然気にしてないので!なんとかなったのならそれでいいんです」
いつもと違う、らしくない本当に申し訳ないといったトーンで謝る彼に慌ててフォローを入れる。けれど、それでもあまり納得がいってなさそうな複雑な顔をする。
「弁当、まだ残ってんの?」
「え、まだ…ありますけどまさか」
「今から残り食うから。適当に場所見つけて食って帰る」
「いいいいいですよ!そこまで気遣わなくて!!」
やっぱり!お弁当のこと気にしてたから待ってて、って言ったんだ。
私が最初に作りたい、って言ったから作ってきただけなのに。余計な気を遣わせてしまって逆に申し訳なくなる。