恋人ごっこ幸福論
「気遣ってんじゃない。こっちは腹減ってんの。だから勿体ないから食う」
「うう嘘ばっかり!めちゃめちゃ気にしてるじゃないですか!すみませんでした、こちらこそ申し訳ないですよ!」
ああ、こんなことならもう少し少な目に作るべきだった…?いつもタイミングが悪いというか、容量の悪い自分が情けなくて仕方ない。
「ったくうっさいな!俺が食いたかったの!」
「え…」
少し照れているように見える彼につい目を見開いてしまう。食べたかった、って期待してくれてたのかな…。
一瞬だけそんなことを思ったけれど、すぐにいつものポーカーフェイスに戻って、
「で、くれないの」
なんてさらっと言うから気のせいかもしれないけれど。
「そ、そこまでいうなら…あそこで食べます?」
近くのベンチを指さすと、先にそっちへ向かってずんずんと行く橘先輩。その後を追いかけて、隣に座ると残り物のお弁当を広げた。
「なんか残り物食べさせるなんて…申し訳ないです」
「俺が食いたいからいいんだって」
一応手を合わせてから食べ始める彼は、もくもくとおかずを口に運んでいく。
なんだ、この光景。無言でお弁当を食べる彼を見つめるくらいしかできず、ただ黙って箸の動きを目で追っていた。
「…そんなに無理しなくていいですからね」
「してない」
「…本当に?」
「旨いよ、本当にしてない」
「分かった…」
食べ続ける彼にこれ以上問いかけるのはやめた。空を見上げると、夕刻だというのにまだ澄んだ青空が見られる。大分日が長くなったな。