恋人ごっこ幸福論
『いや、あれは本気じゃないっしょ』
そもそも、このお付き合いだって橘先輩は“好きってなにか”知りたいから今1番アピールしてくる私を選んでくれた訳だし、さっきの人の言ってることは当たってる。
相手にして貰えなかった時と比べたらかなり関係はよくなったけど、恋人同士としてはまだまだスタートラインにすら立ててない。いつも私がドキドキさせられてばかりだから、そろそろこっちから意識させてみせなきゃ。
…まあ、この前のお昼は少しだけ意識されたような気がするけど。
「ん、なに」
隣を並んで歩く彼の横顔をこっそり眺めようと視線を上げると、ぱっちりと視線があった。
自分から教えて、って言っておいて全然教わる気ないんだもんな。この人。
「どうやったら先輩が好きになってくれるのかなって思ってただけです」
「それを実戦してみてって言ってんじゃん」
「人任せ」
「別に強要はしてないけど」
憎まれ口を叩いたって、何の効果もない。
一体この人は何を考えているのか。