恋人ごっこ幸福論
「続きは?何してくれるの?」
「つ、続きは…」
「ん?何?」
その続きは、手を繋ぐこと。
今ならいけるかも。真っ直ぐ彼を見つめたまま、服の裾を掴んでいた手を離す。
そのまま、彼の指にあと少しで触れようとしたとき。
「ペンギンのおさんぽ始まるって~!!おかーさんはやく!」
丁度すぐ横を小学生くらいの男の子が元気よく声を上げながら駆けてきて。
「ペンギンの散歩?」
男の子の言葉を聞いた橘先輩が、駆けていった男の子の方に目を向ける。その時、触れようとしていた彼の手も離れていって。タイミングを見失ってしまった。
「こらあっくん、走っちゃ駄目でしょ!」
「だーって!もう時間だもん間に合わない!」
早く、と急かす男の子の後から両親らしき人が追ってきて、また目の前を通り過ぎていく。
……あとちょっとだったのに。
「ペンギンだってさ。この順路出たらすぐっぽいし行く?」
「はい…行きましょうか」
「よし」
まあ、私がもたもたしてなければよかったんだけど。
それでも、せっかくの良いチャンスだったのにな。残念だけれどそんな気持ちはなんとか抑え込んで橘先輩の隣に着いていく。