恋人ごっこ幸福論
上手くいかないことなんて橘先輩とまともにお話出来るようになるまでにいくらでもあったんだ。
最近ちょっと上手くいってるからってこのくらいの失敗にへこんでる場合じゃない、切り替えよう。
頭の中ではそう必死に自分に言い聞かせる。今日はことごとく失敗しているから、それでも少しへこんでしまいそうだけど。
必死に自分の気持ちと葛藤しながら順路を歩いていくと、再び屋外に出てきた。
暗い館内に居たからか、陽の光が少し眩しかった。
「わ、色んな種類のペンギンいる…!」
眩しさに目が慣れてくると、真正面の水槽に居る可愛いペンギンの大群が視界に入ってくる。
今から散歩なのか、飼育員さんに誘導されるペンギン達の周りには多くの人だかりが出来ていた。
イルカもいいけどペンギンもいいな、飼育員さんの足元に群がって歩いているだけなのに癒される。
「見てるだけで和みますね~」
「うん。コイツらが1番可愛いよな」
はっきり1番可愛いなんて珍しい。さっきから単調な感想が多かった彼から出てきた言葉に驚いて、つい彼の顔を見てしまう。
ペンギンの散歩を眺める横顔は、今日イチ楽しそうだった。
「ペンギン、好きなんですね」
「水族館なら1番好きだよ」
そうか、だからさっきの男の子の言葉に反応してたのか。
…それにしても、橘先輩に好きって言って貰えるペンギンが羨ましい。
謎にペンギンに羨望を抱いてしまいそうになるくらい、彼の穏やかな表情が眩しい。