恋人ごっこ幸福論
「そうだ。橘先輩、写真撮りませんか?」
ペンギンが好きなら、一緒に写真撮ったら思い出に残るんじゃないかな。嬉しそうな姿を思い出に残しておきたいと思って、そう提案する。
「写真?まあ撮りたいんなら全然いいけど」
「ありがとうございます。じゃあ撮りますね!」
「……え、俺ピンの写真?」
わくわくしながら橘先輩に向かってスマホを構えると、怪訝そうな顔をされる。
「?そうですけど」
「何がどうなったらそうなるんだよ」
先輩に向けていたスマホを持つ手がそっと掴まれて、そのまま私の目の前まで下ろされる。
一瞬の内にインカメにして、距離を詰めてくる彼にドクンと胸が高鳴る。
「ほら、撮って」
「え、そういうこと!?」
「一応デートならそうなんじゃねえの。止めるなら全然俺はいいけど」
「止めない!絶対撮ります、撮らせてください」
「はいはい」
まさかのツーショット。
そっか、写真撮るっていったら普通こうなるよね。嬉しい、凄く嬉しいけどやっぱり近いしドキドキする。
想定外の事で緊張して手が震えそうだったけれど、なんとかピントを合わしてシャッターを押す。
「めっちゃ表情硬いじゃん」
「しゃ、写真撮り慣れてないから苦手で…」
「俺も苦手だから分かるけど。まあこれでいいか」
撮った写真を確認してそう頷くと、橘先輩は何事もなかったかのように傍から離れる。私はまだドキドキしてるのに、貴方はなんともないのだろうか。
いつも通り、私だけがドキドキするデート。
……やっぱりこの前少しだけ意識してくれた気がしたのは、気のせいだったのかな。