恋人ごっこ幸福論
「そう…かな。別に何も変わってないと思うよ」
でも早く切り上げてしまいたい、彼は、黒川くんは悪くないけど会いたくなかった。”かつてのクラスメート”には誰にも会いたくない。
なんとか切り上げる言葉を探しながら、橘先輩にちらっと視線を向ける。何処かこの状況に不安を感じてしまったから彼の顔を見て安心したかった。
「変わったよ。前はもっと大人しそうだったし、ほら楓花と居た時は」
「ごめん、急いでるから」
「あ、待って、神山さん」
これ以上話を聞きたくなくて、強引に話を終わらせる。もうここに居たくない、食べ終わっていたアイスのゴミを捨てて、黒川くんの横を通り過ぎた。
「…じゃあ、そういうことなんで」
「あ、」
橘先輩も察したのか、先に行く私の手を取って、早歩きでその場を離れてくれた。
最後まで聞きたくなかったから、良かった。本当はあの子の名前も聞きたくなかったけれど。
「橘先輩」
「んー?」
おそらく駅へ向かっているのだろう道を歩く中、私の手を引いて先を歩く背中に話しかける。
「もう大丈夫だからそんなに急がなくてもいいですよ」
「悪い、速かった?」
「あ、着いて行けないとかではなくて、もうさっきのことは気にしてないから大丈夫だって言いたくて」
顔だけ振り返る橘先輩にそう言うけれど、先輩はあまり納得がいかなさそうな表情をする。
別に追いかけられている訳でもないし、まだちょっと嫌な動悸がするけど、もう離れたんだし何も問題ない、はず。