恋人ごっこ幸福論
「…本当に大丈夫?」
それなのに、こう彼に尋ねられるものだから、なんとか安心させようと口角を上げる。
「大丈夫…」
なんとか表情を取り繕って言ったつもりだった、けれど不安は顔に出てしまっていたらしい。
「ごめん、ちょっと時間いいか」
そんな様子を見かねたのか、橘先輩は大通りの角を曲がる。一体どこへ向かっているんだろう。
そのまま手を引かれ、大通りから外れた道を進んでいくと脇道に佇む小さな公園に連れてこられた。
「先輩、あの」
「まだ気分落ち着いてないんだろ。屋外で悪いけどここなら人いないしちょっと休もう」
日陰になった休憩所のベンチに座ると、自販機で水を買ってきて渡してくれる。
優しいな、暑いのにわざわざここまでしてくれて。優しさにキュンとすると同時に申し訳なさも込み上げていた。
「本当は聞かれたくないんだろうけど。さっきの男になんかされたことあんの?」
真剣に心配してくれる橘先輩に何も返せない。なにかをされたわけじゃない、黒川くんは悪くない。悪いのは…そう思った時に彼女たちのことを思い出す。
でも本当は私が1番悪いんじゃないか、そう思ってしまうとぐるぐるして、不安になる。
もう二度とこんな姿見せたくなかったのに。弱いままじゃ受け入れてもらえないんだから、強くならなくちゃいけないのに私はいつまでも弱いままだ。