恋人ごっこ幸福論
「ん、これでいいっしょ」
「凄い…手慣れてますね」
「何度もやってるから嫌でも慣れるわ」
保健室へ来ると、丁度職員会議中らしく保健の先生は不在だった。
テープや湿布などの場所も知らないし大丈夫かなと思っていたけれど、当然のように橘先輩が棚から必要な物を取り出して、慣れた手つきであっという間にテーピングを終わらせたので全く問題なかった。
とりあえず現状では酷くなさそうでよかった、ほっと安心する。
「橘先輩、本当にありがとうございました。練習中のコートの傍でふらふらしてたこっちが悪いのに…助けてくれて」
「お前悪くないっつってんだろ。二度も顔面キャッチする羽目にならなくてラッキーくらいに思っとけばいいのに」
「そうですね。でも謝るだけでお礼はまだ言ってなかったから伝えたかったんです」
ふふ、と笑ってそう返すと拍子抜けした顔をして。彼は視線をふいっと逸らすと話題を変えた。
「そういえば最近ずっと、あのクソ女共になんか言われてたんだろ」
「え、なんで知って」
「菅原が言ってた。練習中に「あの子達コソコソ悪口言ってる!」って。んなもん聞こえる訳ないと思ってたら本当だったみたいだし。アイツ地獄耳かよ」
き、聞こえてたんだ…凄いな。
今日騒動にならなくてももしかしたらいずれはこうなってたのかもしれないな、と話を聞いて思う。