元勇者、ワケあり魔王に懐かれまして。
 焦点が合わないほど近い距離にシュクルがいる。それは先ほどと変わらない。

 しかしなにをしているかと言うと、ティアリーゼには説明できなかった。

「……なにをしてるの?」

「うん?」

「いたた」

 身を引いて、なにを押し付けられていたのかを確認する。

 シュクルの額にある、ひし形をした紫色の石。放っておけばティアリーゼの額に穴が開いていたかもしれない。

「……勘違いして損したわ」

「なにが?」

「なんでもないわよ」

(……キスされるのかと思った、なんて)

 まだ熱い頬を手で押さえ、ティアリーゼはすすすとシュクルから離れた。

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