元勇者、ワケあり魔王に懐かれまして。
 それでもここで取り乱さずにいられるのは、もちろんシュクルを思い出したからというのもひとつの理由だが、兄が偽ることなく向き合ってくれたからという事実が大きい。

(お兄様だけは私に対していつも正直だった)

「私は魔王を殺しません。……それだけはどうか覚えていてください」

「……ああ、わかったよ」

 それが別れの言葉になった。

 ティアリーゼは一礼し、その場を立ち去る。

(……誰かに撫でてもらうのって、確かに嬉しいことかもしれない)

 廊下を歩きながら、兄に撫でてもらった頭を触る。

 もうそこにはなんの重みも熱もなかったが、ティアリーゼの心は優しいぬくもりに包まれていた。

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