元勇者、ワケあり魔王に懐かれまして。
 そこに、足音が響いた。

 咄嗟に立ち上がり、扉の方を向く。なにが来てもいいよう構え、呼吸を整えたときだった。

「入っても?」

 静かな声が扉の向こう側で聞こえた。それが倒すべき魔王のものだと気付き、一瞬返答に詰まる。

 だめだと言って聞くような相手ではないだろう。そもそも彼はこの城の主なのだから、許しを得る必要がない。それでも許可を求めた理由を知りたかった。

「どうぞ」

 警戒を怠ることなくそう告げる。ややあって扉が開いた。

「ティアリーゼ?」

(……え)

 なにを言われるかと思いきや、いきなり名を呼ばれて困惑する。

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