元勇者、ワケあり魔王に懐かれまして。
 虚を突かれたティアリーゼを見つめ、魔王は無表情のまま首を傾げた。

「違っているのなら、本当の名を教えてほしい」

「え……あ……」

(なに、この人)

 そう思うのが精いっぱいだった。うっかり警戒が緩んでしまったことに気付き、すぐ一歩下がる。

「確かに私はティアリーゼだけど、それがどうかしたの?」

「別になにも。どう呼ぶべきかわからなかった」

 この男の考えていることが、まったくと言っていいほど読めない。囚われたティアリーゼを嘲っているつもりも、冗談を言っているつもりもなさそうだ。

「あなたはレセントの魔王で合っている?」

「いかにも」

 短く答えた魔王が少し背筋を伸ばす。
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