元勇者、ワケあり魔王に懐かれまして。
「それで、結婚というのは?」

「実は――」

 かちゃん、と紅茶の入っていたカップがティアリーゼの手を滑り落ちる。

 姫として育てられていなくとも、ティアリーゼはレレンによって洗練された礼儀作法を身に着けている。

 ありえない失態だったが、そんなことを気にしている余裕はなかった。

(な、に……)

 手が震える。声が出ない。身体から力が抜けていく。いくつもの異常がティアリーゼを襲っていた。

「おに、さま……?」

 まぶたを開けるための力まで奪われていくようだった。

 徐々に暗転する視界と、そして意識。わけがわからないまま、最後に兄の声を聞く。

「『人間』の裏切り者が」



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