元勇者、ワケあり魔王に懐かれまして。
◇◇◇



 シュクルはいつも通り表情を変えなかった。

 ティアリーゼの命が惜しければ魔王ひとりでタルツまで来いという手紙を、なんの感情も浮かべない瞳で見つめる。

「人間などの言葉に従う必要はありません」

「ならば、ティアリーゼを見捨てろと」

 手紙を届けたトトが息を呑む。

 普段と変わりなく見えても、シュクルは明らかに激情を抱いていた。

「……御身はほかに代えられないものです」

「ティアリーゼもひとりしかいない」

「人間は――ほんの百年も生きられない生き物なのですよ」

「だからどうした」

 大きな物音がした。シュクルが力を込めたせいで、机がひしゃげている。

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