元勇者、ワケあり魔王に懐かれまして。
 周囲を数えきれないくらいの武装した人間に囲まれても、シュクルは平然としていた。

 ひとたび命令が出れば、兵たちは容赦しないだろう。

 たったひとりで来た優しい魔王を、血で染め上げてしまう。

「やめて、お兄様……」

「黙れ」

「っ、く」

 強い痛みを頬に感じた。口の中に鉄臭い味がにじむ。

 叩かれたティアリーゼを見たシュクルが、ゆらりと振っていた尾の動きを止めた。

 表情は、変わらない。

「私はお前の望む通りにした。なぜ、ティアリーゼを傷付ける?」

「こいつを傷付けられるのが嫌なのか?」

「なぜ、嫌ではないと思うのかわからない」

 シュクルはその場を動かなかった。

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