元勇者、ワケあり魔王に懐かれまして。
「なぜ? そいつもお前も憎らしいからだ」

 はははと笑う声は本当に兄のものなのか、意識が朦朧としてよくわからない。

「本当に逃がしてもらえると思ったのか? 魔王を殺して――勇者になれる瞬間をどうして諦める必要がある?」

「お前は、勇者になりたかったのか」

「さぁ、どうだろうな。どちらにせよ、魔王の絶望した顔を見られてなによりだよ」

 再び狂ったように笑う声が響いたかと思うと、突如、大地を揺るがすような咆哮が空を割った。

「しゅく、る」

 鼓膜が破れそうな、怒りと哀しみに満ちた咆哮をあげたのは白蜥の魔王だ。――人の出せる声ではない。

「シュクル、だめ」

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