元勇者、ワケあり魔王に懐かれまして。
 ばり、と不穏に聞こえたのは骨が砕ける音。横たわったティアリーゼの手を、流れてきた血が汚していく。周囲の建物ごと燃やし尽くす炎と、雨のように降り注ぐ人間の体液。鉄に似た生臭い香りが鼻孔を刺激して、恐怖を煽る。

 ティアリーゼが凄惨な光景を見ても嘔吐せずにいられたのは、背中の痛みのせいだろう。

 意識を失いたくとも、痛みがそうさせてくれない。

(シュクル、だめ)

 ティアリーゼは心の中でそう訴えるが、シュクルは止まらない。

 タルツの繁栄を表してきた広場は、今や地獄以外のなにものでもなかった。

 しかし、兵たちもただの人間ではない。

< 368 / 484 >

この作品をシェア

pagetop