元勇者、ワケあり魔王に懐かれまして。
 思わず目を閉じたティアリーゼが再びまぶたを開いたとき、胸から上がなくなった人間が走る勢いを殺しきれず近付いてくるところだった。ばたり、と人形のように倒れた身体から湧き水のように血が溢れ出す。

 獣の咆哮が夜空を汚していった。

 シュクルは殺戮に酔っている――。そう感じ、ティアリーゼはよろよろと歩き出す。

(人間とあなたたちが同じだなんて、おこがましい考えだったわ)

 背中はずきずき痛んでいたが、ここで矢を抜くわけにはいかない。

(あなたたちは正しく獣なのね。……私たちが傷付けさえしなければ)

 キッカが姿を変えたときも、人間によって仲間が傷付けられたときだった。

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