元勇者、ワケあり魔王に懐かれまして。
 おいしいお菓子はティアリーゼの口に幸せを運んでくれる。

 だが、心まで満たされるかと言えばそうは言い切れないのが、少しだけ寂しかった。



「――っていうのが、これを初めて食べたときのこと」



 聞き終えたシュクルは小首を傾げて尾を振っていた。

 そういった状況に身を置いたことがないため、よくわからないのだろう。

 いつもなら「わからない」とすぐ口に出すのに、今は言わない。ティアリーゼの様子からなにかを感じ取ったのかもしれなかった。

 ティアリーゼは焼き菓子を見つめる。

 そして、ひとくちで食べてはいけないと言われていたのを頭に置きながら、ぱくりと食べた。



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