元勇者、ワケあり魔王に懐かれまして。
 しいて言うのなら、窓の外から聞こえる風の音だけだろうか。

 しばらく歩いた後、ティアリーゼは足を止めた。

 ちょうど曲がり角で鉢合わせたのは、初めて見る亜人。

「……あの」

 ためらいがちに声をかけると、硬直していた亜人が肩を震わせた。

 頭の上から覗く三角形の耳はふたつ。ティアリーゼより頭ひとつ分小さく、短い毛の尾がぴんと立っている。どうやらネズミの亜人らしい。シュクルとは違い、考えていることが思い切り顔に出ている。

「別にあなたを怖がらせたいわけじゃないの。だから、あの」

「ににに、人間……」

「そう、人間だけど……ええと、悪い人間じゃなくて」

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