元勇者、ワケあり魔王に懐かれまして。
「……私を食べたりしませんか?」

「た、食べる?」

「だって人間は恐ろしい生き物だって」

(……ああ)

 怯える姿を見て、逆にティアリーゼの頭が冷めた。

 自分たちが亜人を危険な存在だと思っていたように、彼らもまた、人間を恐れている。

「食べたりしないわ。あなたが私を食べないならね」

「……人間なんて食べません」

 むっとしたように言われて、ティアリーゼの頬が緩んだ。

 まだ感情表現をしてくれる分、シュクルよりこの女性の方がわかりやすい。

 幾分、警戒を解いてくれた気配を感じ、ティアリーゼは引いた足を再び前に踏み出した。

 向こうはもう逃げない。

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