見捨てられたはずなのに、赤ちゃんごとエリート御曹司に娶られました
「そこで、コーヒーの染みでもつけたまま彼女の前に行けば、だらしがないと嫌悪感を抱いてもらえるんじゃないかと思ったんだ。思惑通りに嫌な顔をされたし、予定よりも早く食事を切り上げることができた」
「そんなことを考えていたんですね」
あの時、「むしろこうなって良かった」と言った彼の言葉がやっと腑に落ちて、嫌われてはいなさそうだと私はホッと胸を撫で下ろす。
「上手くいった。……そう思ったんだけど、また最近、誘いがかかって。我慢できなくなって、つい嘘をついてしまったんだ。俺、実は恋人がいるんだと」
「そこで私、ですか?」
「頼めないだろうか」
「……わかりました。良いですよ」
頼めばいくらでも了承してくれる女性が周りにいそうなのに、どうして私なのか。その役目は私なんかで良いのか。
さまざまな疑問が頭に浮かんでは消えていったけれど、なぜか断るという選択肢は私の中に残らなかった。
彼も色々考えて願い出たはずで、知り合いよりも赤の他人のような私の方が都合が良かったのかもしれない。
そう解釈しつつ頷くと、彼は嬉しそうに口元を綻ばせ、私の手を両手で握りしめた。