見捨てられたはずなのに、赤ちゃんごとエリート御曹司に娶られました
「嫌な役回りを押し付けてしまって本当にすまない。手を貸してくれて、ありがとう」
自分の手を包み込んできた大きくて温かな手に思わず頬が熱くなり、体の中で広がった気恥ずかしさに戸惑いが生まれる。
「俺は八木沢和哉と言います」
「八木沢、和哉さん」
たどたどしく繰り返すと、彼が微笑んで首肯する。少しばかり緊張しつつ、私も名前を名乗った。
「私は羽田野結衣と言います。……よ、よろしくお願いします」
よろしくってなんだろう。自分の言葉に思わず苦笑いすると、和哉さんもつられるように笑みを浮かべる。
「こちらこそよろしくお願いします、羽田野さん」
自己紹介を終えてしっかりと握手をしたその時、私たちの関係は偽りの恋人となった。
不謹慎だけれど、それからの日々は私にとって楽しいものだった。
打ち合わせと称して、彼が時々食事に連れて行ってくれた。
落ち合ってから、食事中だけでなく別れるその時までずっと、他愛無い話ばかりをしているというのに、時間を忘れてしまうくらい楽しかった。
しかも和哉さんは格好良いから目の保養にもなり、夢心地のような気分にもさせてくれる。