見捨てられたはずなのに、赤ちゃんごとエリート御曹司に娶られました
気持ちよさそうな寝息を立てている小さな体にそれをかけてから、私の方へやって来る。
「無事、雨も降ってきたことだし、俺はそろそろお暇させてもらうよ」
「えっ、もう帰るの? ……そっか。それなら、駅まで車で送るように圭人に言ってこようか」
「いや。平気。雨の中をフラフラしたあと、迎えに来るように秘書を呼ぶから」
その一言で、私の中に再会したあの時の光景が蘇ってくる。傘もささず雨に打たれていた虚ろな和哉さんが。
「……まさか、雨の中、傘もささずにベンチに座って待つつもりじゃないよね?」
「よく分かったな」
「そんなのダメですからね。風邪ひいちゃいますよ」
膨れっ面で注意したけど、笑顔でかわされてしまった。
「言っただろ、俺はまだ記憶喪失のままだって。情緒不安定もしっかり続けてるから、……母さんは俺の心が壊れてしまうんじゃないかと心配みたいだ」
和哉さんは話しながら、着信を知らせて振動するスマホをジャケットのポケットから取り出し、私に画面を見せた。
「母さん」と表示されているから、電話をかけてきたのは和哉さんのお母さんで間違いない。そして、着信はしばらくして途切れた。