見捨てられたはずなのに、赤ちゃんごとエリート御曹司に娶られました

私の不注意でこうなった以上、そして店員と客という立場であるために尚更、その優しさに甘えることはできない。

そこで店の奥から、「お客様!」と店長が慌てて駆け寄ってくる。床の上の惨状を確認し青ざめ、「うちの従業員が申し訳ありません!」と勢いよく頭を下げた。

店長相手でも爽やかに笑って「平気です」を繰り返していた彼だったが、チラリと外を見てから「早いな」と憂鬱そうに目を細めた。視線の先には、黒色の高級セダン車が停まっている。


「すまない。急用で店を出なくちゃいけない。コーヒーは……次来た時に、改めていただいても?」

「お客様がそれでよろしければもちろん。で、ですがしかし」


店長に裾へとちらり目を向けられ、彼は自嘲気味に肩を竦めた。


「本当にお構いなく。……むしろこうなって良かったと思っているくらいですから」


言葉の意味が気になったけれど、憂鬱そうな彼にどう言うことかと聞きづらい空気を発せられてしまい、私は思いを飲み込む。

彼は席を立ち、口ごもった私に対してすれ違いざまに微笑みかけてきた。


「また来ます」

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