見捨てられたはずなのに、赤ちゃんごとエリート御曹司に娶られました

いつもと変わらぬ颯爽とした足どりで彼は店を出て行き、「またお越しくださいませ」という私の声が小さく響いた。

その後店長にきつく注意を受けたのは言うまでもなく、私自身も深く反省した。

次に会えたら、もう一度しっかり、心を込めて謝ろう。

そう心に決めて来店を待っていたのだが、……彼はそれからなかなか私の前に姿を現してくれなかった。

店に来ていない訳ではなく、私のシフトが入っていない時にだけ来店しているようなのだ。

店は良いけどあの店員は嫌だと思われてしまったのではと思えて仕方なく、どうしようもなく落ち込んでしまい、学校でもぼんやりしてしまったほど。

苦しいままに一ヶ月が過ぎた頃、午後十時半にバイトを終えて、気怠く駅に向かって歩いていると、突然彼が私の前に現れた。

大きな交差点にかかっている歩道橋の上で、彼は手すりに片腕を乗せた格好で、真下の車の流れをぼんやり見つめていた。

すぐに彼だと気づいて足が止まったけれど、嫌われているかもしれないしと声をかけるのを躊躇ってしまった。

話しかけるのが怖い、けどやっぱり、もう一度謝りたい。ここで声をかけずに立ち去ったら、きっと私は後悔する。

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