見捨てられたはずなのに、赤ちゃんごとエリート御曹司に娶られました
顔バレしている社長夫婦にさえ会わなければ、気まずい思いをしなくて済むのだ。
「人が来るまでベンチに座って待っていてください」
先ほどまで座っていたベンチを指さしてから、立ち上がった彼に傘を押し付けた。
ヤギサワホールディングスに向かうべく身を翻したけれど、彼は私の腕を離さなかった。肩越しに振り返ると同時に受け取ってもらえなかった傘が地面へと落ちて、わずかに転がる。
彼が私の腕をくっと引っ張った。引き寄せられるままに、私は彼の胸元へと倒れ込み、そっと逞しい両腕に体を包み込まれる。
彼に抱きしめられているのだと理解するまで、数秒かかってしまった。
「なっ、何するんですか!」
「思い出した。……しっかり全部、取り戻せた」
両手で和哉さんの押し返そうとするけれども、しっかりと私を抱きとめているその体はびくともしない。
それでも私は抵抗を続けていると、彼の左手が腰元を強く引き寄せ、右手に手首を掴み取られた。
そのまま息もかかるほど近距離で、和哉さんが私に懺悔する。
「ごめん、結衣。俺、事故で記憶を無くしてた」
しごく真面目な顔でそう言われ、呆気に取られてしまう。