見捨てられたはずなのに、赤ちゃんごとエリート御曹司に娶られました
言いながら、機会なんてもうないだろうなとぼんやり思う。
既婚者である彼と、三年前のように気軽に会っていいはずがないのだから。
転がっていた傘を拾い上げ、改めて彼へと押し付けながら「本当に風邪ひきますよ」と繰り返す。
すると今度は、私の手に己の手を重ねて、彼は傘を掴み取った。
「次の機会まで待っていられない。ここが嫌なら、場所を移して……」
「やめてください!」
大きく彼の手を振り払い、再び傘が地面へ落下する。
彼が本当に記憶喪失になっていたとしたら、和哉さんのお母さんが私にした話は嘘になる。
どうして本当のことを教えてくれなかったのか。……それは、和哉さんから私を遠ざけたかったから。
やっぱり、私との交際を良く思っていなかったということだ。
「聞いたところで、何も変わらない。三年も経ってるんです。私はもうあなたの恋人でもなんでもないんですから、放っておいてください」
「……結衣」
荒んだ気持ちをぶつけてしまってから、和哉さんが呆然としているのに気付いて、私は我にかえった。責めるべきでない彼を、感情に任せて傷つけてしまった。