見捨てられたはずなのに、赤ちゃんごとエリート御曹司に娶られました
「なにが良いのよ、自分は既婚者のくせに」
独り言のつもりだった。
しかし私の声はしっかりと和哉さんの耳に届いていたようで、車を降りるよりも先に腕を掴まれ、車内へと引き戻された。
「なにを言ってる。俺は未婚だ!」
「……えっ。だって」
自分を掴んでいる左手へとそのまま視線を落として、私は目を大きくする。彼の左手の薬指に指輪はなく、私は軽く混乱する。
三年前、和哉さんのお母さんが、近いうちに和哉さんは結婚すると言っていた。
だからもうとっくに彼は家庭を持っていて、子供だっているかもしれないとさえ思っていたのだ。
けれどあの時、彼は記憶を失っていることは伏せられていたし、やっぱり聞かされた話は嘘だらけだったのではという考えに至る。
私は恐る恐る和哉さんと視線を合わせた。
「教えてください。和哉さんの三年間を」
和哉さんは小さく頷いてから、わずかに息を吸い込んだ。
「事故に遭って病院に運ばれて、意識を取り戻したのはその一ヶ月後」
「……そ、それ本当?」
「あぁ。担当医師から聞いているから間違いない」
一ヶ月後と聞いて、私は片手で頭を抑えて俯く。