羽柴弁護士の愛はいろいろと重すぎるので返品したい。【番外編 2021.5.9 UP】
それからママのことや、最近の仕事のことを話しながら映画館に向かっていた。
映画館が近くなった時、まだ少し時間があるからカフェでもはいろうか、と父がいい、私は頷く。
その時、突然、黒い服を着た男の人が私の隣をすごい速さで走っていった。その人に似つかわしくないバッグを持って……。
そのあと、はっきり聞き取れなかったが、泥棒、と叫んだような女性の声が聞こえた。瞬間、父は走り出す。
「みゆ、待ってて!」
「あ、うん……」
父の足は速かった。普段、家でゆっくりしているところしか見ないので、私にとっては驚きでしかない。私の足は父に似たのだろうか。さらに、路地裏に入った男を父は追いかけていって見えなくなった。
その時、私は急に父が心配になってきた。
もし刺されたりしたら、もし父に何かあったら……。
待ってて、と言われたけど、なんとなく私も走り出していた。少し行った先に交番がある。そこに駆け込むと、事情を説明して警官に一緒に来てもらった。
すると、先ほど父の入っていった路地裏で、父は男を確保していたのだ。
父は私と警察官を見ると、
「手錠なかったんだよね。助かった」
と笑う。そのまま、男は警官に引き渡された。