まだ、青く。
私の言葉は潮風に乗って漂った。

しばらくの沈黙は息を飲むのもためらうほど、気まずい時間だった。

私はずっと目を瞑ったまま、じっとその時を待った。

波が寄せては返す音がし、

ヤドカリの井戸端会議も終わりを迎えた頃。

ようやく、その声は空気を震わせた。


「俺で良ければ...」


私の手に熱が加わった。

アイスが溶けるように、

じんわりと心に張り付いた分厚い氷が溶けて

緊張が解れていく。

凪くんの魔法だ。

優しくて温かい。

瞳の奥がじんとして、

鼻の奥がつんと痛くなって

私は目を開いた。

すると私の視界の真ん中には

彼の顔があった。


「夏目の力になる。何があっても夏目の味方だし、何かあったら、必ず助ける。俺も夏目と一緒に"感情"を探す。それが...俺の意思」


凪くんの右手が離れて形を変える。

小指だけが立って視界のど真ん中を占拠する。


「一緒に探そう。約束、してくれるか?」


私は大きく頷き、私よりも長い小指に自分の小指を絡めた。


「約束です」

「うん。これからもよろしく」

「はい。こちらこそ、よろしくお願いします」


こうして、私と凪くんは不器用ながらも互いの気持ちを伝え合い、明日へと約束を紡いだのだった。

白い砂浜の向こうの群青色の海は星の導きを受け、スパンコールを散りばめたドレスのように穏やかに波打っていた。
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