まだ、青く。
「はいこれ」

「えっ?」


志島くんに渡されたのは黒い球体だった。

志島くんもスニーカーに手をかける。

爪先をトントンし、慣れた手つきで壁にかかっていた鍵を取る。


「チャリで行った方が早い。道案内頼む」

「えっ?えっ?!」


そ、そそ、そっか。

自転車の方が速い、か...。

でも、2人乗りって...

危険じゃないですか?

ご丁寧にヘルメットは渡してくれたけど、それでも怖いよ。

いや、待って。

そもそも私重いから2人乗りしてもそんな早く走れないんじゃ...。

あわあわしていると志島くんが右腕を掴んだ。


「門限守らないと」

「あっ...はいっ」


私は覚悟を決め、唯一の安全装置であるヘルメットを装着し、志島くんの後ろに飛び乗った。


うわぁ、なんだろ、これ...。

良く分からないけど、

いつもと違う気持ちがする。

顔が火照って熱い。

それになんだかむず痒い。


「腰に腕回して」

「えっ?い、いや、でも...」


男子の腰って...

いや、ダメダメダメダメ!

と躊躇していると、あっさり腕を奪われ、自動的にポジショニングされた。


「じゃあ出発」


もはや道案内どころじゃない。

汗がダラダラと額や首から流れ落ちる。

それに手汗がびっしょり。

絞ったら滴り落ちそうなほど。

このまま坂の中腹の我が家まで、私の心臓は持つのだろうか。

そんな心配ばかりをしていたら、いつもは嫌になるほど感じる、潮風が頬に当たる痛みやしょっぱさを忘れられたのだった。
< 17 / 310 >

この作品をシェア

pagetop