まだ、青く。
「ごめん。夏目の気持ち、全然分かってあげられなくて...ほんと、ごめん」


凪くんの美しい瞳から溢れた1粒の涙は無機質な床に向かって勢い良く落ちていった。

夏休み中に塗ったワックスのせいで、涙は染み込んでいかない。

そこに証拠を残して留まる。


凪くんは私のために

泣いてくれたんだ...。


「なんか、ごめん。とりあえず...帰ろう」

「うん...」


私と凪くんは部室を後にし、校門に差し掛かるまで黙って歩き続けた。

家が正反対にあるから、いつもここで別れる。

ここで分かれて、

また明日。

なんて言えるわけもなく、

どちらからともなく、足を止めた。

秋の訪れを感じる涼やかな風。

グランド脇のいくつかの木が鮮やかな色に移り変わっている。

長袖のシャツだけでは肌寒くて

外に出るとブレザーを羽織ってしまう。

確かに時は流れて

確かに夏は過ぎて

私の心も変化して

今益々分からなくなった。

自分も周りも見失った。

だけど、

だけど、ね。

思い出したんだ。

私はもう、1人じゃないってこと。

私の隣には...

凪くんがいるってこと。

抱えきれないなら、

言おう。

叫ぼう。

この心を覆い尽くす

モヤモヤを払うために。


私は深呼吸を1度して

口を切った。

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