まだ、青く。
「......てん」


透き通った声が耳をすり抜けた。

私は涙を空色のコートの裾で拭い、広がった視界で確かにその存在を捉えた。

耳を研ぎ澄まし、

再び来る波を待った。

北風が強く、窓ガラスがガタガタと激しく音を立てる中、その声は空気を震わせた。


「てん。あなたの名前は、晴天の天、天空の天、天才の天。

空のように何色にも染められながらも、透き通った広い心を持ってほしい。そう願って名付けたの。

そう...ワタシの宝物は、世界中どこを探しても、天...あなただけ。

ワタシは...天の母親です」


昊さん...母は、私を強く強く抱き締めてくれた。

腕がちぎれそうなくらいの力で

私が潰されそうなほどの力で

強く強く、ただ強く。

きっとそれは私が1番感じたかった力で、

求めていた力だ。

心の中に真っ赤に燃えたぎる炎が宿る。

全身に熱が巡って細胞1つ1つが震える。

母の手は暖かくて

母の呼吸は懐かしくて

母の香りは安らぎで

いつしか私は母の胸でそっと目を閉じていた。


瞳の奥に広がる世界は、どこまでも続く青空。

翼を広げた2羽の鳥が並んで自由に空を泳いでいく。

雲をすり抜け、

遠くに見える木々を愛で、

枯れた土地に種を落とす。

そこから新しい命が芽吹いて

この青空に向かって

大輪の花を咲かせるようにと願って。

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