まだ、青く。
「あら、もうこんな時間。こんなものしかないけど、食べてって」


母が食品棚をガサゴソとあさり、恐らく自分のために買ったであろうお高めのチョコレートの箱を私達の前に置いた。


「でも、私達そろそろ帰らないと...」


私はモヤモヤとチクリとした痛みを感じて凪くんに視線を流すと、凪くんはためらいながらも頷いた。


「そう...。それなら仕方ないわね。本当はこのままが良いけど、ワタシは今まで天のことを迎えに行けなかったし、母親失格だもの、ここでお別れね。汐莉には改めてお礼の手紙を出すわ」

「お母さん...」


私が名残惜しくて俯いてしまうと、凪くんが肩を叩いた。


「夏目はここに残っていい。俺は先に帰る」

「えっ?」


凪くんはすっと立ち上がり、母に深々と頭を下げた。


「今日はお世話になりました。天さんのこと、よろしくお願いします」

「ちょ...ちょっと待って」


確かにここにいたいけど、

いたい気もするけど、

ううん、する。

確かにする。

ここにいたい。

もっとずっとここにいて、

今までの空白を埋めるように

一緒に他愛ない話をしたり

一緒にご飯を食べたり

一緒に買い物に行ったり

一緒に眠ったり

一緒に空を眺めたり

色々したいことがある。

山ほどある。

星の数ほどある。

でも、

でも、私は...。


胸の中で大きく赤い風船が膨らんで、


「待って、凪くん!」


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