まだ、青く。
凪くんは帰りの電車の中でもバスの中でも1回も口を開かなかった。

私の家の最寄りのバス停で一緒に降りてくれた時に「気をつけて」と呟いただけだった。

凪くんが重い荷物を背負って今まで生きてきたなんて知らなくて、

私もその事実に打ちのめされて、

何も言えなかった。

少しばかりの光りも掴めなかった。


私...どうすれば良かったんだろう。

凪くんに何て言えば凪くんは救われたんだろう。


「鈴!」


ぼーっとしていると、懐かしい声が聞こえてきた。

16年間、私の名前を呼び続けてくれた声だ。


「お母さんっ!」


私は母に飛び付いた。

どんな経緯を辿っていても、私にとっては汐莉さんだってお母さんだ。

私をここまで育ててくれた大切なお母さんなんだ。

だから、抱き締めたかった。

抱きしめてほしかった。

木枯らしが吹いて頬がジリジリと焼けるように冷たいというのに、私と母は互いの体温を確かめ合うように夜空の下でしばらく抱擁し合った。

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