まだ、青く。
口元を押さえ泣き出した父の横で、渉はツンとした顔をしている。

渉はないている父を見て自分は泣いちゃいけないって思っているに違いない。

おれが強くならなきゃって、今だって思ってる。

だけど、そんなことない。

そんなことないんだよ...。

渉は今までたくさん私を支えてくれたから、もうこれ以上強くならなくていい。

そのままの渉でいいんだ。

私が渉に視線を流すと渉はちゃんと私を見てくれた。

姉弟だからこそ、伝えなくても分かることがあるっていうけど、今日は言葉で伝える。

だから、渉、その耳で聴いて

その心で受け止めて。

私はすーっと空気を肺いっぱいに吸い込んだ。


「渉はいっつも私のことを心配してくれて、自分のことのように私のことを考えてくれる、すっごく優しい人だと思う」

「んだよ、急に。なんか、気持ち悪い」


渉はお風呂上がりでまだ少し濡れている頭をかいた。

気持ち悪いって言われたって構わない。

なんて言われたってめげない。

心に確かにあるこの気持ちは変わらない。

私が伝えたいから、

最後までちゃんと伝えるよ。


「私は渉が産まれてきてくれて、私の弟になってくれて、私を守ってくれて、私に笑顔をたくさんくれて、私の相談にもいっぱい乗ってくれて嬉しかった。

それに、一緒にいて楽しかった。すっごくすっごく楽しかった。

世界中のどのきょうだいにも負けない姉弟になれたと思う。それは渉のお陰だよ。

ありがとう、渉」

「死ぬ前の挨拶かよ...。サムいわ...」


渉はクッションに顔を埋めた。

男の子のプライドなのか、泣き顔は見せてくれないらしい。

でも、いい。

渉が私に見せる顔も、

見せてくれない顔も、

全部...全部全部受け止めてるから。

それが渉の姉としての私の役目だから。


私は強がる渉の頭を2度撫でてから、母の隣に腰を下ろした。

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