まだ、青く。
そんなことを考えながら歩いていると、目の前を自転車が横切った。

一瞬の出来事で確信は出来ないけれど、

いや...出来る。

私には...分かる。

私は咄嗟に駆け出して、その自転車を追った。

曲がり角で左に曲がり、

その先には見覚えのある家が見える。

ミャーミャーと夜だというのに元気な鳴き声が聞こえてくる。

そうだ。

うん、そうだよ。

あれは、絶対......


「凪くん!」


ゆっくりと背後から近づいて「わっ!」と叫んで驚かせようと思っていたのに、自ら正体を明かしてしまった。

どこかに隠れようかとも思ったけれど、隠れられそうな場所なんてどこにもなくて、私は仕方なく足音が近づくまで突っ立っていた。

やがて、その姿が視界の真ん中に現れ、

潮風に乗って、懐かしい甘くて切ない香りが鼻腔を通った。

波がザザーッザザーッと規則的なリズムを刻む。

凪の海とは対照的な私の鼓動。

その鼓動を鎮めるかのように、両腕が開かれ、私はその中にすっぽりと収まった。


「天...会いたかった」


耳元を掠めるその声に私の鼓動は徐々に鎮まっていく。


「私もです...。凪くん...ただいまです」

「うん...お帰り」


茜色が空と海から消えるまで、私達はお互いの呼吸をお互いの1番近くで感じていた。

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