まだ、青く。
私の家から漁港までは車で15分、歩いたら40分ほどかかる。

この辺りから坂の上の学校や図書館に行こうとしたら1時間は掛かってしまう。

そんな長い道のりを私はキビちゃんを両腕に抱えてただひたすらに歩いた。

この先にご主人様がいるなら早く返してあげたかったし、キビちゃんも早くご主人様に会いたがっていたから。

そして、見えてきた漁港。

もう夜だから船は1隻も動いていない。

船場で寝息を立てている。

月がまだ空に見える明朝に出発するんだから当然だよね。

お仕事頑張ってください。

そう船にご挨拶をしてから、イヤホンを外した。


「ねぇキビちゃん。あなたのお家はどこ?」


キビちゃんの名前に再度触れ、位置を確かめる。

私の瞳の裏にキビちゃん視点で港から家までの道のりが見えてくる。

けれどキビちゃんは人間じゃないから民家の塀をよじのぼったり、街路樹をすり抜けたりしていて大通りを通るわけじゃなくてちょっと分かりずらい。

でも、目印はあった。

裏道を通ったキビちゃんが辿り着いた公園と海神様を奉っている小さな祠と赤い鳥居...

その先の十字路を左に曲がる。

そこがキビちゃんのお家。

キビちゃんの記憶をなぞるように歩き続けておよそ5分。

ようやく目的地に辿り着いた。

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